いい日だった、と眠れるように

私は食べることと同じくらい、料理をすることが好きです。
それは作るという行為が好き、というのとは少し違います。
食べたいものを、自分の手でつくれるという「自由」が好きなのです。

(P2:はじめに)

暑い夏の日曜日の午後、ちょっとのんびりしながら読むのにピッタリな一冊。

日常の中の光景や、家族や友人とのやり取り。
著者の今井真実さんの「生活」の気配を感じる文章から、すっと料理の話が続く。

例えばお花見。
桜の咲く景色を想起しつつも、その日のおしゃれに頭を悩ませ、何より「寒いのよ!」とひとこと。当日も寒さの我慢比べとなり、落ち着かず、結局引き払ってから立ち寄る居酒屋で人心地ついて弾む会話。
そんな思い出話から、いまの楽しみ方を教えてくれる。

健全なお花見には、魔法瓶に淹れた温かいお茶に、軽くつまめるものがよく似合う。よく作るのは、生クリームといちごジャムを混ぜてホイップしたもの。要はいちごクリームなのだけど、いちごの酸で生クリームは早く泡立てることができ、ふわふわで淡いピンク色のクリームは春にぴったりなのだ。これを瓶詰めにして持っていき薄いバゲットに載せて食べてもらう。口にすると、とろりと無くなっていくクリームと、ほのかな塩気。熱々のお茶をすすると、気持ちまでほどけるよう。

(P39:お花見こんくらべ)

生活の中の食事というか、「生活」と「食事」が今井さんの中で途切れていないのだ。
密接に絡まるとか、伴走するとかではなく、日々の時間の中に「食べること」そして「料理すること」が溶け込んでいるような、そんな雰囲気がある。
そしてその先に、家族との一瞬一瞬の時間を大切にする、家族への愛情を感じる一冊。

今井さんの季節ごとのレシピももちろん素晴らしいのだけど(にらのバジル炒めにびっくりしたし、筍のマスタード炒めとか、白菜のクリームグラタンとかおいしかった!)、それよりも優しい気持ちになれるエッセイがとてもいい。
そんな一冊でした。

書名:いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん
著者:今井 真実 さん
発行:左右社
発行日:2022/4/4